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「しばらく休ませてください」

絶対にガードマンを辞めるつもりで、そう電話した
「しばらく」と言ったが、もう二度とガードマンに戻る気はなかった
これが、ガードマンを辞める最後のチャンスだ
そう自分に言い聞かせて、手当たり次第に面接を受けまくった

結果は・・・すべて不採用(T^T)

呆然としてカレンダーを眺める・・・
すでに、二ヶ月が経過していた

自分を必要としてくれる会社は、何処にもないんだ・・・
どうしようもない脱力感と空虚な気持ちでいっぱいだった
貯金も底を突き、もはや先のことを考える気力さえない

そんな時・・・

そう、そんな時だ
二ヶ月も連絡していなかった警備会社からの電話
「そろそろ復帰しない? 常駐現場があるんだけど・・・」

いつもなら鼻に付いてならない司令室の人間の声が
なんだかちょっぴり嬉しかったりして・・・


ごめんなさい
そういう訳で、まだガードマンやってます



2003年1月26日




ガードマンの仕事をしていると、いろんな人間と出会う
つい最近もこんな人間と出会った

本職は養生屋なのだが、実際は何でも屋・・・
様々な雑工が彼の仕事だ

休憩時間になると、彼は必ず同じ話を繰り返す
「俺は、こんなことをやっているような人間じゃない
前の会社では、監督をやっていたんだ
あんたらに、ああしろ、こうしろって言っていた方の人間なんだ」
他の作業員は、「またか・・・」という顔をして目をそらす

それでも彼は、何かを伝えようと必死で話し続ける
「これを見なよ・・・」
取り出したのは、一枚の名刺・・・
それは課長の肩書きが印刷された前の会社のもの

「俺は、こんなことをやっているような人間じゃないんだ」



ねぇ・・・そんなことして悲しくならない?

辞めてしまった前の会社の名刺をみんなに見せて

悲しくないの?



過去も未来も、本当はすべて関係ない
今現在の自分の姿が、偽りのない本当の自分なんだ

ねぇ・・・そう思わない?



2001年4月2日




一昨日、東京にも雪が降った
この冬初めての雪だ

ガードマンになって、何度目の冬を迎えたんだろう

僕がガードマンになった年に生まれた松ちゃんの子供は、もう小学校の2年生になる
啓介は去年、小さな会社ではあるけれど、課長に昇進した
弟は結婚して、子供が二人もいる
今年は、神奈川の方にマンションを買うそうだ


変ってないのは、僕だけかも知れない
そう、10年以上もの間、何一つ変っていない


「おはようございます」「お疲れ様」「それじゃあ、また明日」

「寒いねぇ」「暑いねぇ」「元気?」「元気ないじゃん」

「ガードマンさんって、結婚してないの?」


人の一生って、何なんだろう?
人生には価値のある人生と、そうでない人生があるって言うけど・・・


僕は、こう思うことにしている
自分の人生が、価値のない人生だと思ったら、

それはたぶん

価値のない人生なんだと・・・




2001年1月9日




誘導王について話そう

誘導王が実在した人物であることは、多くの人が知っている
だが、彼がアメリカの宇宙開発計画に深く関わっていたことは
あまり知られていない


1986年のスペースシャトル「チャレンジャー」の悲劇を覚えているだろう
リフトオフ後73秒で爆発炎上
搭乗員7名死亡

世界中の夢を打ち砕いたあの事件の後
僕たちはこんな会話を交わしていた

「これでアメリカの宇宙開発は5年遅れるな」
「いや、10年だ・・・」

そんな会話を何処からか聞きつけた誘導王が、僕たちにこう言った

「あの不幸な事故の後、日本の子供たちにアンケート調査をしたんだ
宇宙飛行士になりたいかって・・・何て答えたと思う?」

僕たちは揃って首を振った

「恐いから宇宙飛行士にはなりたくない・・・みんなそう答えたんだ
でも、アメリカの子供たちは違った

それでも、僕たちは宇宙飛行士になりたい

そう答えたんだ」


それからまもなく、誘導王はフロリダ州メリット島にあるケネディ宇宙センターへと旅立って行った

彼が日本に戻って来たのは、二年後の1988年・・・
そう、その年、1988年9月29日・・・チャレンジャーの事故からわずか2年8ヶ月後に
スペースシャトル計画は再開され
ディスカバリー号が宇宙へと飛び立った

アメリカは失った威信を回復し、世界中が熱狂した


誘導王がアメリカで何をしたのか
どうしてアメリカを救うことになったのか


今となっては知る術もない



2000年9月20日





また、夏がやって来た


ガードマンにとって、一番つらい季節・・・

真冬なら、着込めばなんとかなるが、夏はそうはいかない
はだかでやる訳にはいかないのだ
(一度だけ、上半身はだかで片交をしているガードマンを
見たことがあるが・・・)


もろに直射日光を浴び、フラフラになりながらも
それでも必死で誘導灯を振っている

40度を超える覆鋼板の上で、
車の排気ガスを胸いっぱいに吸い込み、
時々咳き込みながら、くしゃみをしながら、鼻水をすすりながら、
警笛を吹き鳴らす

遠のく意識の中で、道路の反対側に見える
海辺の景色(実際には存在しない)をぼんやりと見つめ、
走り出したい衝動にかられる
(だが、走り出したら、終わりなんだ)


横にいたじいさん警備員が、突然叫ぶ

「おい、見ろよ! あんた、見えるだろ?」
「え? 見えるって?」
「ほら、あれだよ。あれが、パリの街の灯さ!」

次の瞬間、じいさん警備員は、ばったりと道路に倒れた
救急車が到着するまで、うわ言のように呟いた言葉・・・


「あれが、パリの街の灯さ・・・」


じいさん、あと50センチ道路側に倒れたら、
本当に危なかったんだぜ・・・



ホントだよ・・・じいさん



2000年7月9日





ある人が言った・・・

「ガードマンの仕事がきついなんて言ったら
他のどんな仕事も勤まらない
こんなに楽な仕事は、他にないんだから」


別の人は、こう言う・・・

「ガードマンの仕事が楽に感じるようになったら、終りだよ」


君は、どう思う?


こんな話を知ってる?


山羊はいつも重い金時計を首からぶら下げて
ふうふう言いながら歩き回ってた
ところがその時計は、やたらと重い上に
壊れて動かなかった

ある日、友達のウサギがやって来て、こう言った

「ねぇ、山羊さん、何故君は動きもしない時計を
いつもぶら下げているの?
重そうだし、役にも立たないじゃないか」

すると、山羊は言った

「そりゃ、重いさ。でもね、慣れちゃったんだ。時計が重いのにも、動かないのにも」



つまりは、そういうこと・・・


・・・なのかな?



1999年12月8日





かつて、「誘導王」と呼ばれた伝説のガードマンがいた


誘導灯を如意棒の如く扱い
警笛で鳥や雲と会話し
蝶のように舞い、蜂のように車を止めた・・・
彼のことを人は「誘導王」と呼んだ

彼の口癖に
「片交は、人生と同じだ」という言葉がある


人生には、進むべき時と立ち止まるべき時があって
それは、寄せては返す波のように、心地良い一定のリズムを抱いて経過していく・・・

そう・・・彼の誘導は、まさしく『波』だ

そんな彼の短い生涯は、片側交互通行の最中に
あえなく幕を下ろした

彼が越えようとして、越えられなかった
その白いセンターラインの向こうに
いったい何を見たのか?

彼が生涯追い続けた、幸せの青い誘導灯とは・・・



それはまた別の機会に話すことにしよう



1999年11月6日





やっと秋になった・・・

ガードマンの季節到来!
暑くもなく、寒くもない、夢のような時間・・・
(夢かもしれない・・・今年は少し暑さで頭をやられた)

依然として、タクシーの横暴は続いているし
監督の理不尽な要求は、絶えることはない
一般人の強引な割り込みと、高飛車な態度は鼻に付いてならないが
それでもこうしてガードマンを続けている
俺って・・・

イギリスの作家、サマセット・モームが『人間の絆』の中で
「人は生まれ、苦しみ、そして死んでいく」と言った
人生の大半は苦しみだと・・・
ガードマンのお仕事も然り・・・


苦しみばかりで、得るものが少ない


ふと通行止めをしながら、赤く染まった夕焼け雲を見つめて
そんなことを考えていた・・・



1999年10月7日





ガードマンの仕事って、たいへんなんだよねぇ・・・
怒鳴られたり、罵倒されたり、空き缶や煙草の吸殻投げ付けられたり、
ホント楽じゃないよ



特にタクシーの運転手、あれって、何?
片交(片側交互通行)やってて、わざとセンターライン越えて停まる
そこで停まったら、向こうの車流せないでしょ!
わかってんの? あんた!

「何で行かせないんだ!」って、怒鳴る奴もいる
見ればわかるじゃん
片交やってんだから・・・


ストレスたまるわ・・・


今年の夏は、暑かった
ホント暑くて死にそうだった
おかげでヘルメットとアゴ紐の線、くっきり
恥ずかしくてプールにも行けない


でも、ビールはうまかったなぁ



嘘みたいなホントの話・・・

通行止めで、車もたまにしか来ない
こんな時には、いけない妄想に浸ってしまう・・・
ふと足元に違和感を覚え、見るとゴールデンレトリバーが、
電柱と間違えて俺の足にナニをしていやがった
飼い主は、半笑いで
「ぷーちゃん、ダメでしょ!」と犬を叱っていた
その前に、俺に謝れって・・・


何故か涙がこぼれそうになった


この仕事やってて、一つだけ学んだことがある

「江古田はどっちの方ですか?」「さあ・・・」
「神保町は?」「さあ・・・」
「北砂は?」「さあ・・・」

ガードマンにだけには、道を聞くなってこと

オマワリさんじゃないんだから・・・




1999年9月15日